ある水泳大会の事。年長のHが初めて25mクロールにエントリーして挑んだ大会でした。お兄ちゃんたちの大会をギャラリーから応援することはあったものの、初めて参加する大会でした。
自分がプールサイドで速い選手に交じりアップをしているうちに怖くなってきて、「無理無理無理~~~~~」と泣き出しました。まあ想定内のこと。この子の兄2人もずっと小さい頃から見ていたことや親御さんとの信頼関係があることもあり、親御さんがわたしに託してくれたのです。その子はもう無理だと床にひっくりかえってなにもしない。それでも競技は刻々と進行していき、もうすぐその子のスタート時刻となってきました。その子を何度も更衣室に連れていって、状況をちゃんと話し説得する繰り返し。出来そう…、いや無理…、その揺れ動く中、招集場所になだめながら一緒に連れて行きました。
H 「絶対に立っちゃうんもん。25m泳げないもん。」
わたし「立ってもいいよ。立ったらちゃんとジャンプ呼吸して壁まで来るんだよ。1回だけだから。行ってこい!」
H 「1回だけ? 立っても怒られない?」
わたし「怒られないよ。もし誰かが何か言ったら先生がちゃんとH守るから大丈夫。1回だけだ。」
いよいよHの組のスタートコース順がアナウンスされ始めました。その時ですら、まだその子は自分のスタート台の前にいけずに後ろで泣いていてました。腹を決めたわたしは、その子にスイムキャップを被らせ、その場において一言言いました。
わたし「ゴールで待ってるからね。ちゃんと立っちゃったとしても必ず先生のところまで帰っておいで‼」
泣き叫ぶHをその場において、わたしはゴールへと振り返ることもせずに走りました。そして、その組のスタートのピストル音を確認し、振り返るとHは飛び込んでいました。必死にゴールに向かって泳いでいました。大きな声で叫んだ。ギャラリーからも親御さんも仲間たちもみんなで応援していました。
とうとうHは25m完泳してゴールまで来たのです。ゴールの壁にタッチして目があったHの瞳は、それはそれは輝いていて眩しかった。
H 「立たないで泳げたよ!25mちゃんと泳げたよ‼」
水から上がったHはギャラリーのパパとママに向って、満面の笑顔で手を大きく振りました。パパもママも涙で顔がぐちゃぐちゃです。そこにHの兄が来てHを抱っこして席に戻って行きました。
Hがそこから得た大きな勇氣と自信は言うまでもありません。
この瞬間を見た時に思いました。
この瞬間を今できる限りの力を使って一生懸命生きる姿は何よりも美しく愛おしいと。。。
こんなチャレンジを人は沢山しているんだろうけれど、当たり前すぎてそれすら忘れて目先のことに走っていってしまってるんじゃないかって。もうその時には、この子にとって順位もタイムもどうでもいいものだった。エントリーしたきっかけは、目標がタイムだったり順位だったかもしれない。
結果がどうであれ、チャレンジした先におこる奇跡。この感動を積み重ねていくときにイノチは磨かれていくんだと確信したのでした。
ありがとうね、Hちゃん。君のその瞬間に出逢わせてもらったことに心からありがとう❕
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